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路上絵本読み聞かせ初夜の話〜初めてのお客さんは女子高生〜

2006年10月14日(土)夜、9時半。
僕は東京都北千住の駅ビル、ルミネのシャッター前に小さなイスを置いて、腰かけました。そして、足元にレジャーシートを広げて、その日に図書館から借りてきた15冊の絵本を並べました。目の前にはバス停やロータリーがあって、人通りも多くて、少し騒がしい。僕の場所は駅へと続くエスカレーターのすぐ横で、天井があって灯りもありました。
そこで手を叩いて、勇気を出して、
「絵本の読み聞かせ始めるよー!読み聞かせ屋だよー」って声を出しました。
でも、誰一人寄って来ませんでした。通り過ぎる人は大体、冷たい視線でした。

何度手を叩いていても結局、お客さんは来ませんでした。
だから、誰もいなくても読むことにしたのです。
「さんまいのおふだ!」って、声を張り上げました。
でも、そこからがキツかったですね。誰も聞いてくれないのに、路上で絵本を読むのはもう、罰ゲームのようでしたね。
「何でこんな事やってんだ俺は」と思いました。でも、
「ここで帰ったら、もう二度とやらないな、出来ないな」とも思って。
「誰か一人でもお客さんが来るまでは、帰らないでおこう」と、それだけ決めました。そんな孤独な読み聞かせが、30分か1時間か続きました。もう恥ずかし過ぎて、どの位やっていたのか覚えていないのです。

そうしたらようやく、僕の前に二人の女性が座りました。
一人は金髪で、一人は天まで伸びるまつげを付けた女子高生でした。
金髪の子に『なーにやってんの?』って聞かれて、
「絵本読んでるんだよ」と答えたら、
『良いことやってんね〜!!』って言われました(笑)
「でも、お客さんが居ないんだ」と伝えたら、
『じゃあ私たちに読んでよ!』って言うんですよね。
こうして、初めての路上絵本読み聞かせが始まりました。
もう、夜の10時半を回っていたと思います。

『これ読んで!』『次はこれ!』と指差された絵本を、一冊、二冊と読んでいきました。二人はしっかりと絵本に目を向けてくれて、読み終われば拍手をしてくれました。僕はそれがすごく嬉かった。ただただ、嬉しかったですね。

『もう行かなきゃいけないから、次の絵本を最後にする』って金髪の子が言って、最後に指差した絵本は[かわいそうなぞう]。戦時中の上野動物園のお話です。
「いや~今はこの絵本はやめようよ、悲しいお話だから」と、僕は言いました。
すると、『知ってる』って言うのです。『小さい頃にお母さんに読んでもらったから、知ってる』って。『懐かしいから、今読んで欲しい』って。
それを聞いて僕は「断る理由が無いな」と思い、読むことにしました。
「懐かしい絵本と再会してもらう」というのも、聞かせ屋の役割なのではないかと思いました。
そして最後の読み聞かせが始まったのですが……悲しい内容ですからね。二人は真っ直ぐ絵本を見つめてくれていて、僕も読み間違えないように一生懸命読みました。二人に目を向ける余裕もありませんでした。

絵本を読み終えて「『かわいそうなぞう』でした」と言っても……拍手が聞こえて来ませんでした。「やっぱりこの絵本を読んだのは失敗だったかな」と思いました。「どんな顔してるのかな?」と、勇気を出して二人の方を見ました。
すると二人とも下を向いて、涙を拭っていました。
「あぁ、しっかり届いていたんだ…」と思い、何とも言えない気持ちになりました。

そして【大人に絵本を読む】っていうこの活動を、誰かがやらなきゃいけないと思いました。「誰もやらないなら、俺がやろう!」と思い、この夜から始まりました。

 

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